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大阪高等裁判所 昭和37年(ラ)254号 決定 1963年2月04日

決   定

抗告人

柴勝三

柴慶子

野本美穂

右三名代理人弁護士

瓜谷篤治

相手方

巴商事株式会社

右代表者代表取締役

藤田栄太郎

右抗告人柴勝三(債務者兼物件所有者)及び柴慶子(債務者)と、相手方(債務者)との間の、神戸地方裁判所昭和三七年(ケ)第四九号不動産競売事件について、同裁判所が同年一一月一四日言渡した競落許可決定に対し、抗告人等から即時抗告の申立がなされたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告人等の抗告の趣旨ならびにその理由は別紙記載の通りであり、これに対する当裁判所の判断は左の通りである。

一、抗告人等は、本件競売期日においては、競買価格の申出を催告してから競売の終局まで三〇分を経過するのみであるから、民事訴訟法第六六五条に違反すると主張するところ、本件記録中の不動産競売調書の記載によると、担当執行吏が、昭和三七年一一月一二日午前一〇時に本件競売期日を開いて本件競売事件記録を出頭した各人の閲覧に供するとともに、競買価格の申出の催告をし、同日午前一一時二〇分に競売終局の告知をしたことが認められ、抗告人提出の疏第一号証をもつて右認定を覆えすに足らず、他に右認定を左右するに足る資料がない(なお、本件競売価額が、巴商事株式会社と有限会社元町興産との間において前後一七回に亘り、金三九三万余円から金四〇五万余円までせり上げられた事実は本件記録によつて明かであり、この点からみても本件競買申出の機会が十分与えられていることが認められる。)。

してみると、本件競売の終局が、競売価額申出催告後満一時間を経過した後になされたというべきであるから、本件競売手続はこの点において違法がなく、抗告人等の右主張は理由がない。

二、抗告人等は、本件競売物件の最低競売価格を決定する資料として提出されている評価書において、鑑定物件として表示されている物件は他人所有地であり、従つて、本件競売物件についてはなんらの鑑定がなされていないことになると主張し、本件記録中の評価書(記録五七丁)添付図面はやや正確性を欠くうらみがあるけれども、右評価書全体の記載と、本件記録中の土地実測図(同六二丁)及び本件各土地の登記簿謄本を比較対照するときは、右評価書記載の評価が、本件競売物件についてなされたものであることを認めるに十分であるから、右主張も採用し難い。

三、抗告人は、本件抵当権設定の原因証書たる公正証書記載の事実が無根であるから、本件抵当権設定も無効であると主張するところ、本件記録を精査しても右事実を認めるに足るなんらの資料がないから、右主張も理由がない。

四、抗告人等は、本件競売の申立は、本件物件についての仮登記権利者たる抗告人野本美穂に対する抵当権実行の通知をしないでなされたものであるから、これに基いて開始された本件競売手続――従つて本件競落許可決定――は違法であると主張するので考えてみる。

抵当権を実行しようとする場合に、抵当物件について不動産登記法第二条(一号、二号を問わず)による仮登記権利者が存するときは、抵当権者は仮登記権利者に対し、抵当権を実行する旨の通知をなすことを要すると解すべきである(大審院大正一三年八月二日決定、民集三巻四六七頁参照)が、右通知は、登記簿に仮登記権利者の住所として登載された場所に宛ててするをもつて足り、右住所に仮登記権利者が現住せず、その転居先も不明である等の事情により、右通知が仮登記権利者に到達しなかつた場合には、民法第九七条の二の規定によつて公示送達の方法を執ることを要せず、抵当権者は、右通知の通常到達すべかりし時より一ケ月内に、不動産登記法第二条第一号による仮登記権利者においては本登記を受けないでも、又同条第二号による仮登記権利者において本登記を受けた上若しくは本登記を受け得ない場合には現実に所有権を取得したことを証明した上、これらの者から債務の弁済又は滌除の通知を受けない限り抵当物件の競売を申立て得ると解すべきである(大審院昭和一五年八月二四日決定、民集一九巻一八三六頁参照)。

これを本件についてみるに、本件記録によると、本件競売申立が原裁判所になされたのが昭和三七年三月一六日であるが、債権者(抵当権者)が右申立に先立ち、同年二月一四日内容証明郵便をもつて、本件物件について売買予約を原因とし不動産登記法第二条第二号前段による仮登記を受けている抗告人野本美穂に対し、抵当権を実行する旨の通知を発したところ、右郵便の名宛人住所として記載された同人の登記簿上の住所に同人が現住していなかつたため、同月一五日右理由により返送の手続きがとられ債権者に返却されたので、債権者が前示の通り本件競売申立をした事実が認められるから、これにより仮登記権利者に対する抵当権実行の通知がなされたといわねばならないことは、前段説示の理由によつて明かであり、右通知が通常仮登記権利者たる右抗告人に到達すべきであつた日は同月一五日であるといわねばならないところ、同日から一ケ月以内たる同年三月一五日までに、同抗告人において本登記を受けた上、若しくは、売買予約を完結して所有権を取得したことを証明した上債務の弁済又は滌除の通知をした旨の主張もなく、又これを認めるに足る資料もない本件において、債権者の競売申立により開始された本件競売手続――従つて本件競落許可決定――が適法であることも前段説示の理由により明かであるから、右主張も理由がない。

五、してみると、抗告人等の抗告理由として主張するところはすべて採用し難く、記録を精査しても、他に本件競落許可決定を取消すべき違法な事由を見出し得ない(右決定添付目録中、二字訂正印洩れの部分があるけれども、これをもつて原決定を取消すべき理由と認め難い。)から、本件抗告をいずれも失当として棄却すべく、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文の通り決定する。

昭和三八年二月四日

大阪高等裁判所第七民事部

裁判長裁判官 小野田 常太郎

裁判官 柴 山 利 彦

裁判官 下 出 義 明

抗告の趣旨

原決定を取消す。

別紙目録記載の物件につき相手方巴商事株式会社のなしたる競落は之を許さない。

抗告費用は相手方の負担とする。

と云う御決定を求める。

抗告の理由

一、競売継続時間の不足について

当日異議申立人は、平郡善美子、武仲三二子(共に同人方の土地関係の事務員であつた者である)と共に当日十時頃から競売場に臨み、経過をみていたのであるが、午前十一時に(ケ)第四九号の物件の呼上げをなし、間もなく、巴商事が最高価四百五万円の呼声あり、他にそれ以上の価格申出がなく、次いで(ケ)第五九号の物件につぎ呼び上げをなし、巴商事株式会社が弐百五拾六万六百八拾円で最高となり、他に高価な申入がなく、次いで十一時二十五分にそれぞれの最高価格を執行吏が読み上げ「他に誰もないか」と念を押したが申し出る者なく、十一時三十分「本日の競売終了」する旨宣言した依つて競売の所要時間参拾分である。これは明かに民事訴訟法六五五条に違反する(疏第一号)

二、本件競売手続において本件物件について鑑定せしめ最低競売価格が決定されたのであるが、その鑑定された物件は、本件物件でなく、他の物件である、鑑定書附属図面に本件物件として表示されている土地は他人の土地である。従つて本件物件については、鑑定なきこととなりこの点でも民事訴訟法第六五五条に違反する。

三、本件抵当権の原因たる公正証書は、事実に吻合しない、即ち右公正証書によると昭和三六年七月四日が弁済期である。然るに右は事実上弁済期ではなく最初より一ケ年三割の割合による利息を天引して借り受け、爾後毎月七万五千円宛の利息を払つてきたものである。従つて公正証書上の期限の定めは有名無実で公正証書は無効であり、此を原因として設定した抵当権も無効である。

四、本件物件は申立人野本美穂が仮登記権利者であつて、その旨の登記を経ているのに拘らず、此に対する抵当権実行の通知をなさずに競売がなされた。此また民法並に競売法違反であり、競落を許すべからざる理由の一と云うべきである。

目録<省略>

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